ああ、蟲師は、本でも映像でもなんともしっとりしていてほの暗くて、とても人を惹き付ける救いのなさがある。あれだけ人気が出ればいつぞや映像化されてしまって、世に多く出てるマンガ原作のアニメのように酷い事にされてしまうのかなあと憂慮していたけれどそんなことはまるでなくて、むしろ忠実過ぎる程に映像化されたそれはより蟲師の、ギンコの住まう世界へといざなう宵道のようで。


ついうっかり、フィラメントも読んでしまった。ああ、おぼろげにやりたいなあと思っていたこと、全てやられてしまっている。でも僕がせめてあれくらいのものを書けるかといえばそんな訳はなくて、むしろやってくれてよかったと分不相応に安心していたりして。


あちこち見てまわっては「もう先がいる」なんて止まってても仕方ない。何だか漆原さんの作品は、そうと知れても逆に落ち着けるというか、やってても良いのだ、と、思わされる妙な感覚がある。
あの空気、あの感触があるからこそ、多くの人に好かれるのだろうなあ。とてもおかしくて、異常とも言える話なのに、こんなにも身近に感ぜられるのもきっと、ただ日本の土着信仰をもとに組んだ話というだけでなくて、漆原さんがつくる話の空間、読んでいる間のあの一時こそ、いまもそこに蟲があるような、そんな感懐に包まれる所以なのだろう。


全く、悔しい筈なのに感嘆しか出ない。