雪って素敵だ。ここ暫くの間に二回ほど、一度は靴がくるぶしまで沈むほどに積もった。やはり雪景色は真夜中である。しんと静まり返る住宅街。ふつふつと牡丹雪が落ちる音だけが、際限なくとめどなく響いて跳ね返って満ち溢れる。足を踏み出せばずぐずぐと音をたてて、なんとも形容し難い感触を足裏に感じられる。常夜灯の光を一面を埋め尽くす白が乱反射し、足元やそこら中のふちどりが淡い光を放っているよう。
そんな中を一人立ち尽くすのだ。誰も居ない。生き物の音は何一つ聞こえない。ただ低いささやきのような音と、視点が少し揺れるだけで複雑に明度の変わる一面の白が広がっている。このまま埋もれてこれの一部になれたなら、どれほど素敵なことだろう。
一握り雪をすくい上げると、掌でじわじわと熱を奪い溶けてゆく。とても暖かい印象なのに、触れてしまえばこんなにも冷たくて、あっという間に水になって流れ落ちてしまう。
吐く息の白さと雪の白さが重なる。このまま倒れこんでしまいたい体を抑えて、踏みならした足跡を丁寧に辿ろうとして、靴の泥で汚れてぐちゃぐちゃになった足跡を見、その途端に体の芯が冷えた。
やっぱり外に出るとろくな事がない。こんな感じはもう、たくさんだ。