礼の言われすぎだ。
あまり詳しく書けない紆余曲折があり、友人彼氏とその彼女と仲良くさせて貰っているのだが、その彼らとつい昨日遊びに出かけた。折角の二人きりになれる休日に僕みたいなのが同伴してよいものかと思ったけれど、彼女たっての希望もあったようで、それならば当然僕には断る理由もないし、ご一緒させてもらった。ただ少し時期はずれの暖かい空気と鬱陶しい太陽が癪ではあったけれど。
以前彼女さんが行ったことがない、行ってみたいと言っていたスタバへと行き、彼氏は抹茶フラペチーノ、僕はお気に入りのキャラメルマキアートホイップクリームをトッピング、彼女は目を白黒させていたけど、結局僕と同じキャラメルマキアートを頼んで、出されたカップをまじまじと眺めて「これはここから飲むの? 本当に?」と飲み口を指して大層驚いていた。彼氏は彼氏でフラペチーノの中の氷の塊を必死でストローで吸い、「全然飲めない」と嘆くという、何とも不思議な空間。
その後はゲームセンターでクレーンゲームに寄付をし、コインゲームで一瞬のフィーバーと浪費を重ね、最後にカラオケに入って野郎二人は無闇に喉を潰し、控えめな彼女さんは一曲かそこら歌うだけでリモコンを勧められても首を横に振るばかり。聞こえるのは潰れた男の声だけの、何とも、不思議な空間。
と、その辺りで僕のシフトの時間が迫ってきたのでお別れになったのだけど、その別れ際に彼女さんが何かを恥ずかしがってか彼氏を少し離れたところに追いやり、控えめに、でもしっかり改まって、「ありがとう」と、僕に、言った。
全く礼の言われすぎだ。彼女をずっと支えてきたのは僕じゃなくて彼氏だし、ちょっと参ってきた彼氏に頼まれて彼女の相談相手になったのも、こう言っては投げやりで無責任だが、僕の勝手であり、好き好んでやったことだ。礼を言われる程の事なんか、何一つしていない。それどころか、僕はこういう人にさえ、いつだって、何もかもを終りにする残酷な言葉を考えている。
礼なんて言われる筋合いなんか、ない。そういう言葉は彼氏に持つべきで、僕になんか必要ないものなのだ。「あっちにいる子*1にそういう事は言ってやれ」と言って目配せと仕草で挨拶をすると、僕は無為な礼を言う仕事をしに、仕事場へと向かった。
心からの礼を言う彼女と、心にもない礼を言う僕。
いつも通りの皮肉な対比思考に幾ばくかのうら寂しさを覚えて、いつの間にか弱くなったもんだと、一人薄く笑う。

*1:彼氏