最初は何処へ行くとも決めていなかった。家族以外のあらゆること、こと彼女についての思案が頭を埋め尽くし、一方腹の底からは快采を叫ぶ呪いが今こそ飛び出さんと暴れまわっている。人に迷惑をかけぬように。なるべく苦しくないように。もはや僕には一抹の希望もないのだから、どのみち悲しませる事になるならば、彼女の厄介になる前に消えなければならない。西が良いだろうか、あの樹海なら見つかるまい。見つかった所で、僕と判らなければいい。いや、原型を留めていれば、万が一がある。重石をつけて海に沈めば、すぐに食われて身元が判らなくなるのではないか。事故や身投げは問題外だ。これしかあるまい。


夕方から歩き始め、夜半に入り、刻々と更ける夜に同調するよう沈む思いを支えて、ただ死に死ぬための、一人きりのデスマーチ。見知った駅と線路を目印に、ただただ歩く。
その間もずっと、頭は彼女について考えていた。彼女には家を出る前に、家出をする旨と、「またね」と言ったきりだ。彼女のことだから、きっと僕を探す。もしかしたら待ってしまうかもしれない。それは嫌だ。それは違う。
日付の変わり目に、公衆電話から、彼女に電話をかけた。給料が出ないばかりに、携帯電話も使えなくなっていた。
何回かの呼び出し音の後、電話が繋がる。おずおずと話す僕。何も言わずすすり泣く彼女。がちりがちりと十円玉が飲み込まれていく。
とりあえず僕は、彼女の街に行く事に決めた。