そんな環境で家出当日。給料は「経営状態が悪いから」と支払われずに数日が経ち、それにも関わらず無茶な勤務を強いられたことにいい加減堪忍袋の緒が切れて、「貰うべきものも貰えないのなら行かないし、そもそも交通費すらないのだから行けない」とつっぱねたところ、「お前みたいな人間を使ってやってるだけ有り難く思え」、「金が要るならほら、拾え」と来たものだから、「使って『やっている』というのなら、そんな使えない人間じゃなく、もっと使える人間を他に雇えばいい。投げ寄越されるような金も要らない。もう金輪際あんたの元では働かない」


かくして「出ていけ」の言質を取った僕は、夕方の街に着の身着のまま、行くあてもなく家を飛び出し、残金五百円、貯蓄なし。「そいじゃ、死ぬかな」と長い長い徒歩行へと出発したのだった。