もう駄目だと思った。限界だと。僕はもう生きていけない。生きていてはいけない。
生きているだけで場所を食う。時間を食う。物も食うし、関係も食う。
では、僕が食べて後に残せるものはなんだろう。
虚無しかないのだと思った。何も残せない。奪い、損なわせ、傷つけるだけなのだと。
今消えなければ、より消えにくくなる。より長く生き延びてしまう。より多くを食べることになる。
僕は裸足のまま家を出た。後ろから叫び声が聞こえるがどうでもいい。お前なんかどうでもいいんだ。彼女に会いたい。会えるわけ、ない。

後ろから体を捕まれる。振りほどこうともがくが、振りほどけない。ろくに飲まず食わずだったことを後悔した。コンクリートの廊下に突っ伏して、僕は連れ戻される。
勝手に創っておいて、勝手に消えることは許されないなんて、あんまりじゃないか。